2012年6月6日水曜日

HPLC分析のコツ(10) 緩衝液の話1

今回は緩衝液についてのお話です。

疑問1、なんの濃度?
緩衝液の濃度が、緩衝能を示す弱酸、弱塩基の量を示すことは知っています。 ピリジン-酢酸の場合には、pHに関係なく、ピリジンの濃度をさすという例外があることも知っています。 ここで困ってしまうのが、よく使うリン酸です。

例えば、10mM NaH2PO4の場合、pH6.5のときの10mMというのは、リン酸の濃度のことです。 ところが、pH2.5の緩衝液では、10mMは、Naの濃度をあらわしているのです。 同じリン酸緩衝液で、違いがあります。 どっちのpHでも、はじめは10mM分のNaH2PO4・2H2Oを水に溶かします。 この時のpHは4.5くらいです。pHを6.5にするには、NaOHを加えます。 2.5にしたいときは、リン酸でpHを調整します。もうわかってしまいましたね。 pHにより加えるものが違ってくるので、濃度を示すものも変わってしまうのです。 「pH2.5のときには、はじめにリン酸を10mM分計っておけばいいじゃないの」 と思われるかもしれませんが、それはできません。 10mMはかりとるようなリン酸というものが無いからです。 市販のリン酸は、約85%の水溶液です。これじゃ、簡単に10mMなんて作れませんよね。

疑問2、0.2%リン酸はどうやって作ったの?

図 リン酸二水素ナトリウム

クロマトグラフィーの条件をみていると、0.2%リン酸というのが出てきます。 実際作るときになってみると、 「これはリン酸の濃度で0.2%なのかな?」 「85%リン酸が0.2%入っているということなのかな?」 「この%はW/Wなのか、W/Vなのか?」 論文の中に使われていたとき、多くの人はリン酸濃度0.2%(W/V)だと理解すると思います。 問題は、オペレーターがどうやっているかということですが。

この問題に対しては、3通りの作り方がされていると思います。

①約85%のリン酸を425倍に希釈する方法(0.2%,W/V)
②85%リン酸はW/Vでは何%になるかを計算して希釈する方法(0.2%,W/V、作製方法は後述)
③85%のリン酸を2mLとって1Lにする方法

移動相条件の書き方と作り方が1対1で対応していないのはすっきりしません。

疑問1に関しては、10mM NaH2PO4, pH2.5(H3PO4)と書けば良いのです。 疑問2に関しては、%を書かないで、モル濃度で表せばいいのではないかと考えています。

ただし、計算することが必要になります。 0.2%V/Wは何モルか? リン酸の分子量は97.995、比重は1.00として計算します。 1L中に含まれるリン酸の重量は、1000×0.2/100=2.0gで、そのモル数は2/97.995=0.020、20mMとなります。

次はどうやって作るかという話です。簡単です。 85%リン酸を425倍に希釈すれば良いのです。この方法だと、W/Wの0.2%になってしまいますね。 まず、85%(W/W)リン酸のモル濃度を計算します。比重は1.69で計算します。 1Lの重量は、1000×1.69=1690、1690gです。 この中のリン酸の量は、1690×0.85=1436.5、1436.5gです。 これをモル数に直すと、1436.5/97.995=14.66、14.66Mになります。 つぎに0.2%つまり、20mMの作り方を考えます。 85%リン酸何mLが20mMに相当するかを計算すればいいわけです。 0.02=14.66×y, y=0.02/14.66=0.00136 1.4mLを1Lに希釈すればいいことになります。

実際のリン酸濃度に関しては、次回掲載します。