2012年6月20日水曜日

HPLC分析のコツ(11) 緩衝液の話2

85%のリン酸を425倍希釈したときのリン酸のモル濃度を計算してみましょう。 1L作るのに必要な85%リン酸の量は、1000/425=2.35mLです。 この重量は、2.35×1.69=3.97gです。 この中のリン酸の重量およびモル数は、3.97×0.85=3.38、3.38/97.995=0.03449となり、 それぞれ3.38g,34mMとなります。 つぎに最もいい加減な作り方である、85%リン酸を2mLとって1Lにしたときの濃度です。 これは、上の計算結果を使って、34.49×2/2.35=29.35,29mMとなります。

話が長くなりましたが、言い訳をさせてください。 分離で大切なのは、チャンピオンデータではなく、クロマトグラムの再現性です。 だから、この再現性に関わる移動相の調整方法というものを非常に重要と考えています。

さて、今回も緩衝液のお話です。皆さんは、緩衝液を作るとき、pHメーターを使ってpH調整をしていませんか? 私はこれが苦手です。メーターの校正、pH標準液や電極の管理とか面倒ですよね。 pHメーターが他の人に使われていたら、待たなくてはならない。 というわけで、私はpHメーターを使わないで緩衝液を作るようにしています。

「それでは、どうやってやるのかって?」 試薬を正確に秤量して、緩衝液を作っています。保持時間の再現性には全く問題ありません。 管理の悪いpHメータを使うよりも再現性の良いデータが得られます。

しかし、実際やってみると面倒なことも多いのです。 望みのpHになるような試薬の混合具合を試行錯誤しなければいけないからです。 このあたりの見当をつけるのに、化学便覧の「緩衝溶液、組成とpH値」の表を参考にしています。

Michaelisの緩衝液の中の1/30Mリン酸ナトリウム緩衝液、pH6.4を作ってみましょう。 表からはM/30m,KH2PO4:M/30,Na2HPO4でpH6.4になることがわかります。 このまま作成すると、陽イオンはNaとKの2種類になってしまいます。 移動相条件を単純にするために陽イオンをナトリウム1種類にします。 それには、リン酸1カリウムの代わりにリン酸1ナトリウムを使用すればいいわけです。 表の値から必要な試薬の量を計算して、水に溶かせば出来上がりです。 M/30は、0.033Mとして計算します。 リン酸1ナトリウム・2水の分子量は156.10で、必要な量は156.10×0.033×2/3=3.43, 3.43gになります。 次に、リン酸2ナトリウム12水の量は、358.14×0.033×1/3=3.94gです。 秤ではかって、水を加えて1Lにすれば完了です。

自分の目的にあう緩衝液が表に無い場合は、最初に表を作成しなくてはなりません。 条件検討の際はpHメータを使い、条件が決まったら重量法で作製します。

たかがpH調整と思っている人もいるかもしれませんが、毎日のことなので意外と省力化できます。

また、pH調整無しで緩衝液を作れるようになると、緩衝液と有機溶媒の混合移動相を作製することも出来てしまいます。 あらかじめ作っておいた水と有機溶媒の混合液を秤量した試薬に加える。

今日の話はここまで、次回で緩衝液の話は最後にしたいと思います。