2014年11月12日水曜日

分析のひと工夫(6) 吸光度が極めて小さい試料の測定

分光光度計を用いて吸光度が極めて小さい水の色を測定する場合、光路長10mmの角セルでは、測定値が小さすぎてうまく測定ができません。そこで、光路長300mmのセルとそれを収める大型試料室を用意しました。

図1、300mmの長光路セルと大型試料室

分光光度計の測定光はレーザーではないため、光路長が長くなると光束が広がってしまいます。光束の広がりによる測定値への影響を抑えるため、検出器部に積分球を採用しました。この装置で測定した吸収スペクトルから、色度座標xyと明度Y*を算出します。

図2は、浄水、水道水、地下水、河川水の測定データです。光路長10mmのセルで測定した場合は、色度座標xy及び明度Yから色の違いを識別することができませんでしたが、300mmのセルではその違いをハッキリと識別できました。

このように、吸光度が極めて小さい水のような試料を測定するには、光路長を長くすることが有効です。


図2、10 mm(上)、300 mmセル(下)の
色度座標xyと3刺激値Y

* 色を感じるための刺激量の一つです。人間の目にはR・G・Bを認識する組織があります。光源の分光分布と試料の透過率、等色関数を掛け合わせたものの積分値X、Y、ZがそれぞれR・G・Bにあたり、これらX、Y、Zで色を表現する方式をXYZ表色系といいます。詳しくはJIS Z 8701-1999を参照してください。さらにXYZ表色系から絶対的な色合いを分かりやすく表現するため、色度座標xyと明度Yを用いたxyY表色系が考案されました。xyY表色系により全ての色は、x,yによる二次元平面および明度Yで表現できます。

2014年10月29日水曜日

分析のひと工夫(5) 蛍光性試料の透過率測定

蛍光性試料を分光光度計で測定する場合、透過光だけでなく試料からの蛍光も検出器に入射されてしまうため、正しい透過率を測定することが困難です。

図1 分光光度計による蛍光性試料の測定

通常、このような試料は分光蛍光光度計を使用することで、蛍光の影響を取り除いて透過率を測定しますが、ここでは分光光度計を用いて蛍光性試料を簡易的に測定するための工夫を紹介します。

分光光度計を用いて蛍光性試料の透過率を測定する場合、試料と検出器の距離を離すことで、指向性のない蛍光の影響を抑え、指光性のある透過光を選択的に測定することができます。

今回は実験的に、蛍光性を持つビタミンの錠剤を測定しました。また、試料と検出器の距離を離すため、300mmセル用の大型試料室を用いました。試料と検出器の距離を離しながら測定を行ったところ、距離と透過率の関係は図2のグラフに示すとおりとなりました。一定以上の距離をとることで、蛍光の影響が抑えられていることが分かります。

図2、ビタミンの錠剤の透過率(縦軸)と
試料と検出器の距離(横軸)のグラフ

このように、分光光度計でも簡易的に蛍光性試料の透過率を測定することができます。

2014年10月16日木曜日

分析のひと工夫(4) コンタクトレンズの測定

今回はコンタクトレンズの測定を紹介いたします。消費者が使用するのに近い状態でコンタクトレンズの品質を評価するため、保存液に浸した状態で透過スペクトルを測定することがあります。その際、図1のように、石英板に試料を挟んで測定します。

図1 石英板に挟んで測定

しかし、この方法では、
・ハードコンタクトレンズは測定できない(割れないように挟むのが難しい)
・気泡が入りやすい
・中心部に光を当てにくい
・作業環境が濡れる
という問題点があります。

そこで、図2のように、水平置き積分球の上に置いた試料ホルダにコンタクトレンズをセットしました。試料ホルダに保存液を浸して測定を行ったところ、透過スペクトル(図3)を得ることができました。

図2 水平置き積分球を用いて測定

このように、水平置き積分球を用いることで、保存液に浸した状態でのコンタクトレンズの透過スペクトルを容易に測定することができます。

図3 保存液に浸したコンタクトレンズの透過スペクトル

2014年10月1日水曜日

分析のひと工夫(3) ダイヤモンドの測定

人工的に放射線処理したダイヤモンドは、その痕跡として740nm付近に微弱な吸収ピークが観測されます。このピークの有無で、放射線処理したダイヤモンドを判定します。

ダイヤモンドなどの宝石は試料がセットしにくいうえ、ブリリアントカットされているため、ほとんどの光を反射します。分光光度計で測定するには、反射を抑えるため、ガードル方向に光を透過させ、測定する必要があります。(凄いテクニックですね!)

図、ブリリアントカットの切子面の各名称

このような測定には、水平置き積分球が有効です。水平置き積分球を利用することで、簡単にダイヤモンドのガードル方向に光を透過させ、測定することができます。その結果、人工的に放射線処理したダイヤモンドは740nmに吸収ピークを持ち、天然のダイヤモンドはピークがないことが確認できました。

図、水平置き積分球によるダイヤモンドの測定

本測定により、人工的に放射線処理したダイヤモンドを判定することができます。

2014年9月17日水曜日

分析のひと工夫(2) 製造ライン上のフィルムの膜厚測定

一般に静止したフィルムの膜厚は、その反射率スペクトルにみられる干渉波形から計算することができます。しかし、高速で移動する試料、例えば製造ライン上のフィルムの膜厚を測定する場合、測定中に測定箇所が移動してしまい、どこの膜厚を測定しているかが分からなくなってしまいます。また、測定する場所によって膜厚にバラつきがあると干渉波形が得られず、膜厚を計算することができません。

図、製造ライン上のフィルムの測定

そのような場合、一回の点灯時間が3 μsecという非常に短いXeフラッシュランプとマルチチャンネル検出器を搭載した分光光度計を用いることで、極めて短い移動距離の間に測定を行うことが可能です(上図)。データ処理の時間も加味すると0.5 秒ごとに測定することができます。このような工夫を凝らすことで、製造ライン上で移動するフィルムであっても、その膜厚をモニターすることができます。

■参考
下図、フィルム上で反射する光(A)とフィルム透過後に反射した光(B)が干渉します。それらの干渉波形より、膜厚を計算できます。

図2、膜厚測定の概要

2014年9月4日木曜日

分析のひと工夫(1)インクの分析

インク等に含まれる顔料は希釈を行うと、その溶媒や希釈率によって、吸収スペクトルの形が変化してしまうことがあります。そこで、インクを原液のまま分光光度計で測定する方法を検討しました。

インクの原液を通常の光路長10mmの角型セルで測定すると、測定できる吸光度の限界を超えてしまうため、吸収スペクトルを得ることができません。そこで、図に示すような光路長0.1mmの段差セルを用いて測定を行いました。

このように光路長を1/100まで短くすることで、インクのような濃い液体を希釈することなく原液のまま測定することができます。

また、このセルを使用することで試料の量は数μL程度と非常に少量で測定することができます。

図 インク原液の測定

2014年6月18日水曜日

時短、省溶媒分析のすゝめ(4)簡単、IR測定(ClearDiskChanger)

FTIRの測定において、KBr錠剤法で試料調整するのって中々手間ですよね。
今回は、そんな手間を減らす便利なツールをご紹介します。

ClearDiskは、ディスポーサブルの成型用円板です。試料を載せたKBrプレート、これを成型器にセットしてハンドプレスでプレスするだけで、測定用のDiskが出来上がります。

ClearDiskを用いた試料調整

円板には、試料の情報や測定日を書き残すことも可能です。錠剤法だと、直接情報を書き残すことは難しいですよね。また、ディスポーサブルなので、そのまま廃棄することも可能です。

図 ClearDisk、文字が書ける

さらに、この試料を連続して測定できるものが、ClearDiskChangerです。これは、8つのClearDiskを同時にセットできるもので、回転させるだけで次の測定ができます。更なる時間短縮が可能になります。


ClearDiskChanger
8つの丸い部分にセット

2014年5月29日木曜日

時短、省溶媒分析のすゝめ(6)簡単、IR測定(KBrプレート法Ⅱ)

前回は粉末試料の測定でKBrプレートを利用した測定方法を紹介しました。今回は液体試料の測定でKBrプレートを利用した測定方法を紹介します。

通常、グリスなどの粘性の高い試料は、窓板に塗り、組立セルにホールドして測定します。また、粘性の低い垂れやすい試料の場合は、窓板に挟み、組立セルにホールドして測定します。しかし、これらの方法で測定を行うと、窓板で試料が固まると洗浄が大変であったり、窓板自体が比較的大きく、貴重な試料を多く使用してしまうということがあります。

図 KBrプレート(3×3×0.5mm)窓板として測定

そこでKBrプレート法の登場です。試料のセッティング自体は従来法と同じですが、KBrプレートがディスポーサブルなため、測定毎に窓板を洗浄する必要がありません(時短、省溶媒)。さらに、本方法では、また、試料のサイズはφ3(通常はφ10)で測定できるため、1μL程度の試料があれば測定が可能となります。

KBrプレート法と従来法の測定例を図に示します。従来の測定と同様のスペクトルが得られていることが分かります。本方法を用いれば、試料のセッティングの時間を短縮でき、省サンプル、省溶媒で測定できます。

図 クッキングオイルの測定

参考資料
ジャスコエンジニアリング 組立セル(MagHoldIR)
日本分光 FTIRの基礎(5) 簡単、便利!FTIR測定のコツ



2014年5月19日月曜日

時短、省溶媒分析のすゝめ(5)簡単、IR測定(KBrプレート法)

今回は以前ご紹介したClearDiskを用いたFTIRの測定を、もう少し具体的に手法をご紹介します。3mm角のKBrの板にサンプル粉末を挟むだけでFTIRが測定できる方法です。圧倒的に時間を短縮できます。しかも、簡単ですよね。具体的には以下のような操作になります。

①成形器にClearDisk(ジャスコエンジニアリング製ディスポーサブルDisk)をセットし、KBrプレートを一枚載せ、その上にサンプルを載せます。

②もう一枚のKBrプレートを載せ、その上から押さえプレート(成形器上部)を2、3回転させます。

③押さえプレートを外し、サンプル粉末が広がっていることを確認、上下のKBr板を揃え直してからミニプレスでハンドプレスします。

図 ClearDiskを用いたKBrプレート法

本方法により手軽かつ迅速に多検体をまとめてサンプリングすることができます。更に、KBrからの吸湿を抑制することや、測定サンプルを保存できるというメリットもあります。より具体的なお話は以下のリンクをご参照ください。

【参照】
KBrプレート法・KBr錠剤法の新しい形2014
今こそ聞きたい!KBr錠剤法・プレート法のコツ2017

2014年5月7日水曜日

時短、省溶媒分析のすゝめ(3) UHPLC

前回まで、UV、IRと来ましたので、今回はHPLCについて話したいと思います。技術の発展により、HPLCを更に進化させた超高速液体クロマトグラフ(UHPLC)が出現しました。

原理を簡単に説明すると、粒子経の小さい充填剤カラムを用い、3倍の線流速、1/3のショートカラムを用いた場合でも同等の分離が可能になり、約1/10の時間でクロマトグラムが取得できるといったものです。その際、以前よりも高圧に耐えるシステムと、鋭いピークを検出するための検出器が必要です。この分析に対応したクロマトグラフがUHPLCです。

時間の短縮は述べた通りですが、流量と分析時間が減ることから、溶媒使用量も1/10程度に減少します。(再生時間も含めると更に減少します。)


UHPLC発売当初とは異なり、現在ではUHPLC用のカラムもかなり増えてきました。「素早く測定したい」「溶媒の使用量を抑えたい」という方で、まだ使ったことがないという方は、ぜひUHPLCのご使用をおすすめします。

【参考】
ジャスコエンジニアリング(株)作成パネル

2014年4月22日火曜日

時短、省溶媒分析のすゝめ(2) しみの抽出測定

繊維などの物質に混入した「しみ」を分析する場合、一般には、一度有機溶媒などで抽出し、それからサンプル調整して測定する必要があります。しかし、金蒸着ミラーと顕微赤外反射法を用いると、もっと簡単に測定することができます。

図に示すのは、布に付着した「しみ」です。これを手ごろな大きさにカットし、金蒸着ミラーにのせ、3μLのクロロホルムで抽出します。布を取ったあと、金蒸着ミラー上の残渣を顕微赤外反射法で測定します。

図 布のしみを金蒸着ミラー上に抽出


布などに付着した「しみ」を測定する場合には、非常に簡単に、すばやく測定できます。有機溶媒も、極少量で済みます。下図に、顕微赤外反射法で測定した「しみ」のIRスペクトルを示します。

図 しみ(オイル)のIRスペクトル


2014年4月9日水曜日

時短、省溶媒分析のすゝめ(1) 一滴分析

化学的な分析において、測定時間の短縮や溶媒使用量の低減は、コストや環境保護の観点からも非常に重要です。そこで、今回から数回に渡って「時短、省溶媒を実現する分析手法」をご紹介したいと思います。第一回は「一滴測定」です。

UV、蛍光、CD、基本、液体サンプルの分析は角セルに入れて行います。その場合、サンプルは2mL程度必要です。

日本分光の提供する一滴測定ユニットを用いると、サンプルを中央の部分に一滴滴下するだけで測定できます。5μL程度で測定ができ、サンプル自体の量を少なくすることが可能です。また、測定には滴下、測定後は拭く(回収も可能)だけで次の測定を行うことができ、非常にスピーディに分析ができます。UV、蛍光、CD、いずれにおいても1滴で測定することができます。


タンパク質のようにサンプルが貴重な場合に非常に有効です。測定時間を短縮したい場合にも効果を発揮します。タンパク質を測定するかた、沢山の試料を測定するかたは、このような方法もあることをお含みおきください。







2014年4月7日月曜日

2014アカデミアキャンペーン

日本分光では、今年も教育関連機器向けに特別価格で各種分析機器をご提供させていただくキャンペーンを実施いたします。詳細につきましては、お問い合わせください。


◆対象商品


▼高速液体クロマトグラフ

セミ分取システム
セミ分取システム

  • アイソクラティックシステム
  • グラジエントシステム
  • セミ分取システム
  • PDA検出器
  • 蛍光検出器
  • オートサンプラ
  • HPLC用ソフトウエア(ChromNAV)

▼超高速液体クロマトグラフ

  • X-LC/Aシステム
  • X-LC/Bシステム


FT/IR-4700(新型)

▼赤外分光光度計

  • フーリエ変換分光光度計
  • 1回反射ATRベースキット
  • 高耐圧型1回反射ATRベースキット
  • ZnSeプリズムキット
  • Geプリズムキット
  • 高耐圧型ダイアモンドプリズムキット
分光光度計
紫外可視分光光度計  

▼紫外可視分光光度計

  • 1滴測定システム
  • 紫外可視分光光度計
▼分光蛍光光度計

  • 分光蛍光光度計
※本キャンペーンは科学研究費・教育機関対象です。期間は2014年7月31日までです。

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