2012年5月23日水曜日

HPLC分析のコツ(9) 再現性の良い混合溶媒の作り方

今回は、再現性の良い混合溶媒の作り方についてお話します。

本題に入る前に、混合する精度がどの程度必要なのかを考えてみます。 混合比率の変化は保持時間の変化となってあらわれます。 一般に、高速液体クロマトグラフィーでは化合物の同定は保持時間のみで行われます。 移動相を作り直すごとに、保持時間が大きく変わるようでは困ります。 逆相クロマトグラフィーである化合物を分析した場合、アセトニトリル濃度10%と11%を比べると、 保持時間は13.7分から11.8分へ、約2分も動いたことがありました。0.1%の変化で0.2分(12秒)動くことになります。どのあたりを精度目標にするか、大変難しいのですが、0.1%~0.2%にしたいと思います。 上記の例の場合、0.5%では1分以上保持時間が動きます。これではあまりにも大きすぎます。かといって、0.05%を目標にすることは現実的に困難です。 例えば、1Lの移動相を作る場合、100.0mLと100.5mLを区別しなければいけないからです。

では、どのようにすれば、0.1%の精度で移動相を作成できるのでしょうか。ポイントは計量器の精度(最小目盛)です。 結論から言いますと、10%以下はメスピペット、メスシリンダーで作り、それ以上は天秤を使います。10%以下も天秤で計って移動相を作っても良いのですが、 使い慣れたピペット、メスシリンダーでも精度は出ます。

10%以下の例について記述します。100mLのメスシリンダーでは99mLと100mLを計り分けることができます。 一方、1Lにフィルアップするときに使うメスシリンダーでは、990mLと1000mLを計り分けることはできます。こうして出来上がった移動相の組成は9.9~10.1%の範囲に入ります。もっと少量の場合ではどうでしょうか。1%の場合、9.9mLと10mLは十分計り分けることができます。この場合、0.99%~1.01%となります。

今度は、10%以上について考えてみましょう。20%を0.1%の精度で作るには、199mLと200mLとの区別ができなければなりません。200mLのメスシリンダーでは、これが不可能です。最小目盛が2mLだからです。ここで電子天秤に登場してもらいましょう。これを使うと、200.1gと200.0gさえ計り分けることができます。あとは全量を1LにすればOKです。比重をもとに体積を重量に変換しておかなければなりませんが。

天秤を使ったことによって、新しい混合溶媒の表し方が出てきました。 重量%と重量比です。どちらもあまり見かけません。私の場合、 重量%で表示しなければいけないような作り方はしません。 重量比で作った場合でも、比重で計算して体積比として表示しています。

さて、ここで%表示と比率での表示について考えます。どちらが得かというお話です。2.9%を作ることは簡単です。29mLを1Lにメスアップすればよいだけです。ところが、97.1:2.9を作ることはできません。1Lのメスシリンダーで971mLを計りとるのは不可能だからです。このように考えると、量が少ないときは%表示の方がよさそうです。 天秤で作るのであればどちらも可能ですが、天秤で作るのは大変です。

%表示で混合溶媒を作るとき、注意して欲しいことがあります。 充分に混合してから、全容を1Lにして下さい。10%メタノールの場合、水500mL入れてメタノール100mLを加え、よく混合したのちに水を加えて1Lにしてください。 水900mLの上にメタノールを静かに加えて2層があまり混合しないように、注意深く1Lにする。こんなことは、しないでください。